『betrayers』 黒巣市A.D.2026−Act III+
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 Master Scene-03 「大祓」
 ScenePlayer:−−/時間:31日深夜/場所:都内某所/登場:不可

  除夜の鐘の頃、つらつらと述べられる年始の予定が呪文のように書斎に響いていた。
  寛ぐ間も無いという事は、彼も予想していた事だったのだが――

  「……あの〜…黒部さん?」
  秘書が年始の予定を読み上げている最中、その主が控えめに口を挟んだ。
  『如何なさいましたか?』
  「年明けに一日…いえ、半日でもいいので、予定を空けられると嬉しいんですが…」
  『年始に、ですか』
  批難を言外に滲ませ、時期を強調して尋ね返した。
  「先日、黒巣へ出向いた時に忘れ物をしてしまいまして」
  「一月中でも構いません。何れかの予定をキャンセルしてでも取りに行きたいんです。大切なものですから」
  『でしたら、誰かに取りに行かせましょう。手配致します』
  話は此処までとばかりに、彼女はスケジュール帳を閉じようとした――が。
  「うん。君の言う事も、もっともな事だと思う」
  不意に、その手を掴まれた。

  「けれどね」

  掴まれた手を強く引き寄せられ、秘書はバランスを崩す。
  その体が“火鷹”の細い腕で支えられた。
  「“   ”。いつからお前は“私”よりも偉くなったのかね?」
  責めるでもなく、問い糾す口調は、変わらぬ笑みと同じく穏やかに、
  眼差しだけは冬の凍月のように冴え、間近から彼女を見つめていた。
  『…………………』
  “先代”に付けられた名で呼ばれ、眼を見開かせた彼女の瞳孔が恐怖に窄まる。
  彼女の顔にかかる長い黒髪を指でそっと梳ると、
  こめかみの辺りに隠されていた“数字”が皮膚に浮かび上がった。

  「主の言葉が理解できぬなら、お前に与えた知性も無用の長物。殺戮の獣に戻れ」
  その数字を指先でなぞりながら、愛し子に言い聞かせるように“火鷹”が詠う。
  「もう一度問うよ。“僕”の言葉は、理解できたかな…?」

  『…………畏まりました。我が“創造主”…』
  怯えに声を掠らせつつ、忠実な下僕は答えた。

  「――うん。君は頭が良いから、理解してくれると思ったよ」
  宜しい、と。得られた返答に満足げに“火鷹”は頷き、
  大丈夫ですか? と、気遣いとともに柔和な笑みを浮かべて彼女を立たせた。

  「それじゃあ、今までのようにスケジュール管理は君にお任せします」
  休暇の件も宜しくと、付け加えた時、
  遠くの空で、新年を言祝ぐ鮮やかな光の華が闇に咲いた。


  「さあ、新しい年が明けたよ」
  「僕は“プレアイデスの鎖”を解きに行くとしよう」



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 DOUBLE+CROSS THE 2nd EDITION
「『betrayers』黒巣市A.D.2026−Act III+」